ムチランス型関節リウマチ(RA)の破壊性頸椎病変に対する治療戦略は,少なくとも座位がとれる段階でhaloベストを装着し,至適頸椎アライメントを獲得するのと同時に,全身状態の改善,自己血採取を行い,手術的加療を行うべきである.後頭骨―胸椎間固定は満足のいく結果が得られたが,モダンな椎弓根スクリューを使用した後期のシリーズでは,意外に隣接椎間,椎体障害が多かった.とくに股関節の可動域制限の厳しい症例は腰椎への影響も大きく,注意深い観察と装具療法の必要性がある.
緒 言
関節リウマチ(RA)は,四肢関節の病変に加え多彩な頸椎病変を呈することが知られている.とくに環軸椎関節に生じるリウマチ性病変は前方亜脱臼(AAS)から始まり垂直脱臼(VS)へ進行したり,また中下位頸椎にも前方亜脱臼(SAS)や強直などの変化を生じる1).RAの頸椎病変の自然経過もさまざまで,AAS は症例によっては自然に癒合していく場合もある2).またRA病型によっても頸椎病変はさまざまで,その結果,外科的治療方法にも統一した方針は存在しない.しかしOchiら3)の提唱した全身病型分類のうち,最も破壊性頸椎病変の強いムチランス型(MUD)は全例AAS+SAS+VSを呈し,その自然経過,生命予後とも悲観的であると諸家は報告している2)4)5).このような症例に対し,術前のhaloベスト固定を行って全身状態と神経学的改善を待って,後頭骨から胸椎までの固定を行ってきた.後頭骨から胸椎までの固定術が必要となる適応,術前のhalo ベストケアの有効性,術後成績および手術が与えるADL上の問題点,そして隣接椎体,椎間への悪影響も含めて論述する.
1 適 応
1983年から2002年までのあいだに手術的加療を行ってきたRA頸椎病変の症例89例中,AASが42例,SASが3例,VSが1例,AAS+SAS が5例,頸椎症(CS)が18例であり,後頭骨から胸椎まで固定を行った症例は,すべてAAS+SAS+VSを合併したムチランス型20症例であった.
2 治療の実際と手術成績
halo装着から手術までの期間,神経症状および痛みの改善度,貧血度および自己血採血量を術前検討項目とし,手術時間,出血量および輸血量,神経症状と痛みの改善度,halo除去までの期間と患者の満足度および合併症を術後の検討項目とした.手術時平均年齢59歳,術後経過観察期間は5年であった.神経症状,pain scoreはRanawat scale6)を使用したが,神経症状のⅢBを座位可能なものをⅢBa,座位不可能なものをⅢBbとして評価した7)(表1,2).
3 結 果
halo装着後手術までの期間は平均43日であった.装着前の神経症状は15例がⅢBb,5例がⅢBaであったが,装着後12例がⅢA,8例がⅢBaへと全例改善した.またⅢBaの8例中6例は術後改善しなかったが,2例はⅢAに改善した.ⅢA12例のうち6例はⅡへ改善したが他の6例は改善しなかった.痛みはhalo 装着前は全例3点で,装着後2点,手術後から経過観察時には1.4点へと改善した(図1).
入院時ヘモグロビン(Hb)は10.6で,自己血貯血量は 890mLであった.手術時間は5時間45分で出血量は723gであった.術後最低Hbは6.4であったが,全例自己血輸血で対処可能であった.
4 術中術後合併症
術中合併症については後頭骨固定時ワイヤーカットが2例,椎弓のワイヤーカットが1例,椎骨動脈損傷が1例であった.ワイヤーカットについては再度締結し直し,また椎骨動脈損傷に関しては圧迫止血を行って対処した.周術期の合併症としてはhalo ピン刺入部の感染が1例,背部の褥創が1例,肺炎が1例であり,全例抗生物質投与で改善した.患者の満足度は最終的にⅡへ改善した6例とⅢBbからⅢAへ改善した8例の合計14例がexcellent,ⅢBbからⅢBaへ改善した6例中3例はgood,残りの3例は改善なしで,飲水ができないこと,背部痛,胸椎圧迫骨折による背部痛が愁訴の原因であった.最終経過観察時,2例が心不全(60歳代前半男性で術後4.2年,60歳代半ば女性で術後5年)で死亡し,2例は術後4年で腰椎圧迫骨折による後弯変形で再手術を行った.
また頸椎の前方固定はSASがあっても1例を除いて19例すべて行わなかったが,20例のなかでインスツルメントの破損を生じたものはなかった.
5 使用したインスツルメントによって手術成績は変わるのか
2002年から2009年までのあいだに,固定力が強いとされる椎弓根スクリューを使用して後頭骨から胸椎までの後方固定を行った56例のRA患者を対象とし,インスツルメントに関連した合併症,そして固定椎体,隣接椎体へ及ぼす影響を調査した.男性10例,女性46例,RA罹病期間20年で,MUD:43例,MES:12例,LES:1例であった.下位椎体,椎間障害は11例19.6%に認め,圧迫骨折は10例,椎間関節亜脱臼は1例であった(表3).
インプラントのトラブルは13例23.2%に生じ(表4),感染は8例14.3%に合併した(表5).
6 症例呈示
[症例]70歳代半ば女性.RA発症後25年.主訴は頸部痛,後頭部痛,上下肢筋力低下である.後頭部痛が強く座位がとれないためⅢBbであった.
X線写真にてAAS,SASをC3/C4,C4/C5に認め,MRIではVSによる延髄圧迫とSASによるC4-C6までの脊髄圧迫を認める(図2a).
Haloベストを1ヵ月行い,座位可能なⅢBaに改善した.手術は ユニットロッドを使用して後頭骨から第5胸椎まで固定した(図2b).術後5年の現在,車椅子生活ではあるが痛みはなく,満足度はexcellentであった.X線写真上骨癒合は得られており,前方固定はしなかったが自然癒合している.しかし術後7年で腰椎圧迫骨折を生じた(図2c).
7 考 察
RA患者における破壊性頸椎病変の自然経過は惨澹たるものである.Sunaharaら8)は,21人の破壊性頸椎病変を有するRA患者がひとたび脊髄症状を呈すると3年以内に四肢麻痺が進行し,7年以上の生存は認めなかったと報告し,またOmuraら5)も同様に6人の破壊性頸椎病変を有するRA患者の自然経過で脊髄症状発症後3年以内に麻痺は進行し,すべて寝たきりであったと報告した.またCaseyら9)も134人の分析で,脊髄症状の軽いうち,とくに歩行ができる時期に手術的治療を行うことが術後の改善はよく,また合併症も少なく生命予後も良いと結論している.頸椎病変を伴ったRA患者でも,その程度の軽いAASのみの場合は,その自然経過も良い場合も多く,脊髄症状が出てからでも環軸椎固定のみで対処できる2).しかし諸家が報告するように,破壊性頸椎病変,とくにAAS,SAS,VSのすべてを伴ったOchiら3)の提唱するムチランス型のRA患者の自然経過予後は悲惨で,脊髄麻痺の軽度な適切な時期に手術的加療が必要であることには異論はない5)8).われわれはOchiらの提唱するムチランス型のRA患者で,AAS,SAS,VSのすべてを伴った破壊性頸椎病変に対して積極的に後頭骨から胸椎までの固定を行ってきた.手術的加療を行う前に,全例halo ベストを装着し神経学的改善と全身状態の改善を待った.この術前halo ベストは有効で,とくにわれわれの施設へ送られてきたRA患者の20人中15人は座ることさえできない寝たきり状態であったが,haloを装着することによって全例改善し,歩行可能となったのは20例中12例で,他8例も頸部痛が改善し座位が可能となった7).このhaloベスト は個人個人の至適な頸椎肢位を決定するうえで重要で,手術もこのhaloベストを装着したままベスト後方を除去して,そのままの矢状面アライメントで固定することにより,過度な頸椎屈曲あるいは過度な伸展位固定による不具合を回避することが可能であった.手術的加療であるが全例後頭骨から第5胸椎まで固定した.この固定にはユニットロッドを使用したが,このシステムは胸椎部に椎弓根スクリューを併用することができ,ルーキーロッドとワイヤー固定よりも頭尾側方向への強度は強い10)11).術後8例は神経学的改善を得,そのうちⅢAからⅡへ改善したのは6例で,このうち5例は入院時はⅢBaの座位可能な状態であった.すなわち座位可能なⅢBaの段階で手術的加療を行うことが重要であるといえる.この手術時期に関しては,Caseyら9)は脊髄症状が少なく,ⅢA の歩行可能な時期に行うほうが神経学的改善,生命予後についても良いと132 人を分析した結果から述べている.
またOmuraら5)もムチランス型の自然経過例6例と手術例11例の神経学的所見,ADL,そして生命予後を比較検討し,自然経過観察例では3年の経過観察時にはほとんど寝たきりで死亡しており,できる限り早期の手術的加療を勧めている.周術期の合併症は,初期の20例中3例で重度なものはなく対処できた.興味深かったのは,固定力が強いとされるモダンな椎弓根スクリューを使用して後頭骨から胸椎までの後方固定を行った56例の解析を行った結果であった.下位椎体,椎間障害は19.6%に認め,インプラントのトラブルは23.2%に生じていた.RAの破壊性頸椎病変に対して,後頭骨から胸椎までの固定を行ううえで重要なのは,もともと骨脆弱なRA患者に固定力の強いとされる椎弓根スクリューでは強固な固定ができないことを理解することである.今回のモダンなシステムで使用したロッド径は3.5mmで,初期20例に使用したユニットロッド径は4.75mmであり,ワイヤーとフックのハイブリッドで固定していた.モダンなシステムのロッド径3.5mmが細すぎるのかもしれない.また初期20例は術後もHaloベストで1ヵ月固定したが,後期の56例は頸椎カラー固定のみであった点も合併症の多かった理由と考えられる.
ムチランス型RAの破壊性頸椎病変に対する治療戦略は,少なくとも座位がとれる段階でhaloベストを装着し,至適頸椎アライメントを獲得するのと同時に全身状態の改善,自己血採取を行い,手術的加療を行うべきであると結論できた.手術は一度限りである可能性が高いので,後頭骨から胸椎まで固定したが,意外に可動域制限は気にならず,疼痛改善を得ることのほうがメリットが多く,ためらわず固定を行うべきと考える.ただ術後の隣接椎間障害に関しては,注意深い観察と装具療法の必要性があると考えた.
結 語
RA患者の破壊性頸椎病変に対しては,術前のhaloベスト固定が有効であり,ユニットロッドを使用した後頭骨―胸椎間固定は,自然経過例の予後と比較すると満足のいく結果が得られたが,モダンな椎弓根スクリューを使用した後期のシリーズでは,意外に隣接椎間,椎体障害が多かった.RAのなかでもMUDはほとんど4関節置換術をしている場合が多く,とくに股関節の可動域制限の厳しい症例は腰椎への影響も大きく,注意深い観察と装具療法の必要性がある.
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浜松医科大学整形外科教授
松山幸弘 Matsuyama Yukihiro
・DEBATE 2 手術的治療:Short fusion/鐙邦芳 ほか
・DEBATE 3 手術的治療:Long fusion/松山幸弘