RA頸椎の再建手術はできれば環軸椎固定に留めたいが,後頭頸椎固定を要することは少なくない.その場合,固定の尾側端を軸椎とするshort fusionが望ましい.さらに尾側までの固定を要することもあるが,固定尾側端はC4あるいはC5に留めたい.Short fusionには固定を椎弓に依存せず,後頭環軸椎の配列異常の矯正に優れ,安定した再建が可能な椎弓根スクリューを勧める.しかしRA頸椎ではスクリュー刺入の可能な椎弓根は限定されることが少なくなく,必ずしもsegmental fixationが可能とは限らない.
緒 言
関節リウマチによる頸椎病変(以下:RA頸椎)は環軸椎に好発するが,後頭環椎間さらには軸椎下にも波及する.病変が環軸椎に限局し,脊髄障害や制御困難な頭頸部痛,あるいは明らかな不安定性を伴うときは環軸椎固定の適応であり, Magerl法(経環軸関節スクリュー固定),環椎外側塊スクリューとC2椎弓根スクリューを連結する環軸椎固定などで対処できる.議論の対象は,後頭頸椎固定や軸椎下固定を要する進行したRA頸椎病変をshort fusionで再建するかlong fusionを厭わないか,であろう.また, Magerl スクリューや頸椎椎弓根スクリューなどの固定アンカーの登場後,この後頭頸椎固定の方法は近年大きく変化した1)2).軸椎下病変が手術適応となる例のほとんどは同時脊髄除圧が必要で,この場合のshort fusionには頸椎椎弓根スクリュー固定が威力を発揮する3).本項では,頸椎椎弓根スクリューを固定アンカーとするRA頸椎の再建手術につき解説・検討する.頸椎椎弓根スクリューの刺入方法に関しては,成書,論文を参照いただきたい4)-7).
1 適応
手術適応,手術方法の選択にはリウマチのステージと活動性,患者の全身状態,後頸部痛や神経障害の有無・程度,年齢など多くの要素を検討する.以下,筆者が考える3種類の手術方法の適応に関して述べる.
1.環軸椎固定
しばしば,環椎前弓と歯突起間距離(ADD)が4mm以上あると環軸椎不安定性があり,環軸椎固定の適応とされるが,これは正しくない.たとえADDが4mm以上,時には10mm程度あっても,環軸椎間の可動性がない,あるいは小さい場合は,明らかな脊髄障害を呈しない限り,環軸椎固定の適応はない.逆にADDが4mm以下であっても,歯突起後方に軟部腫瘤が増生し,脊髄障害を呈した場合は環軸椎固定を適応してよい.この場合,環軸間の可動性がかなり減じている場合は環椎後弓切除による除圧手術単独で対処可能なこともある.またADDは小さく環軸椎の可動性は減じているが屈曲変形が強いため,歯突起先端が前方から脊髄を圧迫することもある.この場合は屈曲変形を矯正して環軸椎固定を行う.RAが進行し,歯突起骨折が生じる場合がある.この場合,環軸椎不安定性は著しく,神経障害がない場合でも環軸椎あるいは後頭頸椎固定の適応となる.
2.後頭頸椎固定
環軸椎関節に加え後頭環椎関節の破壊が進行すると,環軸椎単独固定による再建は不適当で,後頭頸椎固定を考慮すべきことが多い.RAによる上位頸椎病変で後頭頸椎固定を要する場合,神経障害の多くは,環軸椎の屈曲変形に環椎の前方転位と軸椎の垂直性亜脱臼(vertical subluxation)が加わり,延髄-脊髄の移行部が前方から歯突起先端により圧迫されて生じる(図1).
環椎の前方転位が高度になると環椎後弓による後方からの圧迫が加わることもある.時には前方転位も屈曲変形もなく垂直性亜脱臼が主なことや,軸椎歯突起が骨折あるいは消失し,環椎が後方に脱臼することもある.いずれの病態にあっても,整復による後頭環軸椎配列の正常化自体が神経除圧効果をもたらす.ただし,垂直性脱臼があっても,後頭環軸椎に可動性がなく,神経障害を呈していない場合は手術適応とならない(図2).
また,神経障害があっても,後頭環軸椎の可動性が小さいときは,環椎後弓切除のみで十分なこともある(図3).
後頭頸椎の矯正再建手術では後頭骨と頸椎の双方に確実な固定アンカーが望ましい. 頸椎アンカーとしては椎弓根スクリューや経環軸関節スクリューなどの強固なアンカーが採用されるべきである8)9).haloベストなどの大掛かりな外固定に依存するような再建法は四肢関節にも障害の多いRA患者ではADLを大きく損なわれ,可及的に避けるべきである.固定範囲は後頭環軸椎固定に限定したいが,軸椎自体の破壊により固定アンカーをとれない,あるいは軸椎下のRA病変が進行している場合は,後頭-軸椎下固定とならざるを得ない.後頭頸椎固定の固定下端椎をどこにするかは議論のあるところである.
3.軸椎下固定
軸椎下病変で手術治療を要する例の多くは後方除圧が必要で,しかも後弯やすべり,椎間不安定性などを伴い,同時固定が必要である.しかし脊柱管狭窄による脊髄障害のみで,後弯,すべり,椎間不安定性のいずれも伴わない場合は,椎弓切除あるいは椎弓形成術による後方除圧のみで十分である.また,すべりを伴っていても,すべり椎間が可動性を失っているときは,侵襲の大きい再建手術を併用する必要はなく,除圧のみで十分である(図4).
RAによる軸椎下病変に対して同時固定を行う場合,外側塊の骨脆弱性が著しいことが多い.Short fusionには椎弓根スクリュー固定が威力を発揮するが,椎弓根を固定アンカーとして使用できないことも多く,そのような例ではlong fusion,時には後頭頸椎固定を要する.RA頸椎では椎間関節スクリューや外側塊スクリューの固定アンカーとしての信頼性は低く,多くの場合,椎弓根スクリュー固定よりも長い範囲の固定を要する.
2 治療の実際
環軸椎の一分節で再建される環軸椎固定は省き,short fusionの意義,可能性,限界などが議論の対象となる,後頭頸椎再建と軸椎下固定に関して述べる.
1.後頭頸椎固定
筆者らは後頭頸椎固定に独自の後頭頸椎固定用ロッドを開発し,使用してきた.このシステムでは,左右のロッドのプレート部分を各2ないし3本のスクリューで後頭骨に固定し,頸椎椎弓根に刺入されたスクリューと連結固定する.後頭骨の正中線に近く最も厚い部分に計4本のスクリューが刺入される.後頭骨スクリューにはself tapping typeを勧めるが,小径のhigh speed burrを用い,後頭骨の内板まで導入孔を作成してから刺入する.内板を穿孔した場合,時に硬膜や静脈叢が損傷されるが,スクリュー自体が穿孔部を塞ぐので,髄液瘻や出血の心配はない.正中線から離れた部位の後頭骨はRA頸椎の場合とくに薄く,スクリュー孔作成時,硬膜が損傷され脳脊髄液が漏出することがある.後頭骨の正中から離れた部分が薄く,スクリューによる固定性が期待できない例では,外側のスクリューは省略してよい.
後頭環軸椎の変形矯正は,あらかじめ整復を想定してプレート/ロッド移行部分で曲げ,先に後頭骨に固定し,ロッドと椎弓根スクリューをナットで締結することにより得られる.再建された後頭頸椎の安定性はきわめて高い8).さらに後頭骨と頸椎スクリュー間にスプレッダーで伸延力を加え,垂直性脱臼の整復も可能である.後頭骨スクリューの刺入部を前方にし,C2椎弓根スクリューにワッシャーを加えてからロッドと連結すると軸椎が前方に転位し,環椎の前方転位は高率に整復される.後頭頸椎間の屈曲変形ならびに垂直性脱臼の整復により,歯突起先端による延髄脊髄境界部の前方からの圧迫は解消され,神経症状は改善する(図5,6).
整復自体が神経症状の改善をもたらすので,経口進入法や下顎骨縦割法による前方からの直接的除圧10)11)は,後方法でまったく整復できない骨性強直の例に限定できるが,RA頸椎の場合,環軸椎が亜脱臼の状態で骨性強直となっていることはほとんどない.術前の前後屈機能撮影で可動性がない状態でも,ほとんどは術中に整復できる.ただし,骨脆弱性が著しい,腹臥位になってもC1/2間の可動性が著しく小さい,C2の椎弓根や椎体が破壊されているなどの場合は,固定アンカーをC3以下に延長するか,固定アンカーを増やす必要がある(図7).
筆者らの調査では,固定下端椎をC4以下,とくにC5以下にした場合,術後経過中に隣接椎間の破壊が進行し,固定範囲を延長せざるを得ない頻度が高かった.固定下端椎をC5以下とするよりは,後頭胸椎固定を選択すべきであろう.
2.軸椎下固定
軸椎下の除圧再建手術を要するRA頸椎例には,RAの進行例が多く,骨質がきわめて不良である.内固定法としては外側塊も脆弱なため,外側塊や椎間関節のスクリューはアンカーとして信頼できない.椎弓根スクリューが最も信頼できるが,椎弓根の破壊や椎骨動脈の走向異常,回旋・側弯変形などを伴うことが多く,必ずしもshort fusionが可能とは限らない.しかしながら,術前の慎重・詳細な画像評価から,できるだけ短椎間の固定を心がけたい(図8).
RA軸椎下病変では椎骨間が不安定で固定を要する椎間と,すでに椎間の自然癒合が成立している椎間が混在していることが少なくない.その場合,segmental fixationにこだわらず,スクリュー刺入椎弓根を適宜選択する(図9,10).
3 成 績
1994年以来,RAによる上位頸椎病変に対し,頸椎椎弓根スクリュー固定を用いて後頭頸椎再建固定を行い,術後2年以上経過した126症例の中長期成績を調査した.後頭胸椎固定例と偽関節例は除外した.固定尾側端がC2の場合,尾側への固定延長を要したのは2例,2.1%のみであったが,C3以下では固定尾側端が尾側になるほど追加固定を要する頻度が高い傾向にあった(図11,12).
また,後頭軸椎固定の固定姿位が過前弯になると,固定尾側端以下がそれを代償して後弯位になっていた.追加固定を要した後頭軸椎固定例では軸椎下に可動性のない状態に,後頭軸椎固定が過前弯でなされていた.
重篤な合併症として,上記の長期経過観察例に含まれない,肺疾患の悪化による術後早期死亡が2例あった.術後感染が2例に生じ,1例は持続洗浄で治癒し,他は金属抜去し偽関節となった.偽関節の頻度は,後頭頸椎固定を行った全RAでは105例中4例,3.8%であった.後頭軸椎固定例で,術中の椎骨動脈損傷が1例あったが術後神経合併症はなかった.後頭軸椎固定の1例に術後開口障害が生じたが,自然治癒した.ほか,重篤な合併症はなかった.
4 長所と短所
RA頸椎の再建手術におけるshort fusionの短所は,言うまでもなく可動椎間の温存である.まったく可動性のない頭蓋と可動性の低い胸椎の間でlong fusionが行われると,残余可動椎間数が少ないほど機械的ストレスは高じ,隣接椎間障害発生の可能性が高まることは容易に想像できる.しかしながら,頻回の手術治療を避ける目的で行われることの多い後頭胸椎固定は,四肢関節の障害を伴うことの多いRA患者のADLを大きく損なう.初回の再建手術から後頭頸椎固定を採択することは可及的に避けたい.隣接椎間障害発生の可能性を低め,軸椎下の病変の進行をできるだけ遅らせるには,生理的頸椎配列でのshort fusionが理想であろう.後頭環軸椎で屈曲変形が強いと,中下位頸椎は過大前弯になっていることが多い.後頭環軸椎の屈曲変形が矯正されると中下位頸椎の過大前弯は自然矯正される.生理的頸椎配列は中下位頸椎の破壊進行を遅らせる効果があるであろう.以前筆者らは,環軸椎固定例の調査で環軸椎が前弯位で固定されると軸椎下が後弯位になることを示した12).同様に,後頭軸椎間で前屈矯正が大きすぎると軸椎下で後弯が生じ,尾側への固定延長を要した例があった.後頭頸椎での矯正程度は固定尾側端以下の脊椎配列,可動性を考慮して調整する必要がある.
Short fusionの短所として,固定アンカーの設置の困難性,神経血管合併症のリスクの高い点が挙げられる.RA頸椎では脊髄除圧を要する部位と同一高位に再建手術を要することが多い.椎弓根自体の破壊,椎骨動脈の走向異常などはスクリュー刺入のリスクを高め,時にはsegmental fixationを避けざるを得ないこともある.しかしながら椎弓根スクリュー法以外の再建方法では,より長い範囲の固定が必要となる.
結 語
RA頸椎の再建手術において,患者のADLを損なわないshort fusionによる可動椎間の温存は推奨されるべき選択である.残余可動椎間の破壊が進行しやすいRA頸椎の再建手術では,後頭頸椎固定における固定尾側端はC2が望ましい.C2より尾側までの固定を要する場合,固定尾側端はC4あるいはC5に留めるべきで,それより尾側までの固定を要する場合は後頭胸椎固定とすべきであろう.隣接椎間における破壊進行の可及的防止には,残余可動椎間の配列・可撓性も考慮した変形矯正が望まれるが,それには椎弓根スクリューなどの内固定手術の習熟が必要である.抗リウマチ薬,生物学的製剤の進歩により,RA患者の生命予後は確実に伸びてきている.固定追加の可能性は低くないが,short fusionによる可動性を保った頸椎と,追加手術の可能性は少なくないが,完全に可動性を失った後頭胸椎固定での永年にわたる生活の優劣には議論のあるところであるが,再建手術の質をより高めたshort fusionを目指したいと考える.
References
1)Abumi, K., Takada, T., Shono, Y. et al.:Posterior occipitocervical reconstruction using cervical pedicle screws and plate-rod systems. Spine 24:1425-1435, 1999
2)Grob, D., Dvorak, J., Panjabi, M.M., Antinnes, J.A.:The role of plate and screw fixation in occipitocervical fusion in rheumatoid arthritis. Spine 19:2545-2551, 1994
3)Abumi, K., Kaneda, K., Shono, Y., Fujiya, M.:One-stage posterior decompression and reconstruction of the cervical spine by using pedicle screw fixation systems. J. Neurosurg.(Spine 1)90:19-26, 1999
4)Abumi, K., Ito, M., Kotani, Y.:Cervical Pedicle Screw Fixation. The Cervical Spine Surgery Atlas, 2nd Edition. Philadelphia, Lippincott Williams Wilkins, 2004, pp.411-422
5)Abumi, K., Ito, M., Kotani, K.:Occipitocervical Stabilization. The Craniovertebral Junction:Diagnosis, Pathology, Surgical Techniques (Goel, A., Cassiola, F. eds.). Thieme, Stuttgart-New York, 2011, pp.110-128
6)Abumi, K., Ito, M., Kotani, Y.:Cervical Pedicle Screw Fixation. Advanced Reconstruction:Spine (Wang, J.C. ed.). AAOS/NASS, 2011, pp.191-201
7)Abumi, K., Ito, M., Sudo, H.:Subaxial Cervical Pedicle Screw Fixation. The Textbook of Operative Spine Surgery 3rd Edition (Bridwell, K.H., Dewald, R.L. eds.). Wolters Kluwer/Lippincott, Williams & Wilkins, 2012, pp.321-334
8)Oda, I., Abumi, K., Haggerty, C.J. et al.:Biomechanical evaluation of five different occipito-atlanto-axial fixation techniques. Spine 24:2377-2382, 1999
9)Gabriel, J.P., Muzumdar, A.M., Khalil, S., Ingalhalikar, A.:A novel crossed rod configuration incorporating translaminar screws for occipitocervical internal fixation:an in vitro biomechanical study. Spine J. 11:30-35, 2011(Epub 2010 Oct 20)
10)Subin, B., Liu, J.F., Marshall, G.J. et al.:Transoral anterior decompresion and fusion of chronic irreducible atlantoaxial dislocation with spinal cord compression. Spine 20:1233-1240, 1995
11)Hall, J.E., Denis, F., Murray, J.:Exposure of the upper cervical spine for spinal decompression by a mandible and tongue-splitting approach. J. Bone Joint Surg. Am. 59:121-123, 1977
12)Yoshimoto, H., Ito, M., Abumi, K. et al.:A retrospective radiographic analysis of subaxial sagittal alignment after posterior C1-2 fusion. Spine 29:175-181, 2004
北海道大学大学院医学研究科機能再生医学講座 体幹支持再建医学分野教授
鐙 邦芳 Abumi Kuniyoshi
北海道大学病院整形外科
岩田 玲 Iwata Rei
・DEBATE 2 手術的治療:Short fusion/鐙邦芳 ほか