早期に関節リウマチ(RA)と診断して遅滞なくメトトレキサート(MTX)を開始する重要性が唱えられている.さらに,予後不良因子などを勘案して生物学的製剤を併用することが推奨されるが,現在わが国で使用可能なTNF阻害薬は5剤であり,そのすべてにおいて基本的にMTX併用が望ましいと考えられる.MTX併用が必須なインフリキシマブ,併用しないと限定的な効果であるエタネルセプト,併用により中和抗体が抑制できるアダリムマブなどMTX併用に対する依存性は異なる.その他の製剤の構造,半減期,投与方法なども考慮して,個々のRAにベストユースを模索する必要がある.


緒 言

関節リウマチ(RA)の診断には,米国リウマチ学会(American College of Rheumatology;ACR)が1987年に定めたRA分類基準が使われてきた.しかし,同分類基準は早期RAを分別する指標としては適当でないことが明らかになり,2010年ACR/欧州リウマチ学会(European League Against Rheumatism;EULAR)によりRA新分類基準が策定された.その背景には,近年の薬物療法,とりわけ生物学的製剤の登場があるが,早期にRAと診断し,使用可能であればメトトレキサート(MTX)を遅滞なく開始するべきであると推奨している.さらに効果不十分な場合には生物学的製剤にて積極的な治療介入を行えば,骨破壊などの不可逆的な進行を抑止しえ,長期寛解維持が可能であることが報告されてきたが,治療の根幹はアンカードラッグとされるMTXによる治療である.多くのTNF阻害薬はMTXを併用することで滑膜炎制御,骨破壊抑制において最大限の効果を得られることより,使用可能であれば併用すべきと考えられている.本稿では,高疾患活動性RA初診例に対する治療のなかでもMTX+TNF阻害薬による治療の適応,治療の実際,他の治療法との比較などにおける長所,短所などに関して概説する.


1 適 応

RAの診断は,2010 ACR/EULAR分類基準に従って行い,疾患活動性,機能障害,構造障害,臓器障害などを評価したうえで,すみやかに治療を開始することを基本とする.2012 ACRでの治療推奨を図1a,bに示す.



発症6ヵ月未満の早期RA疾患活動性が低い場合,中等度で予後不良因子がない場合は,抗リウマチ薬単剤療法を選択する.中等度疾患活動性で予後不良因子(画像上の骨びらん,機能障害,RFまたはCCP抗体陽性,関節外病変〔血管炎,肺病変など〕)を有すれば,抗リウマチ薬併用療法(2~3剤),さらに高疾患活動性の場合,予後不良因子がなければ抗リウマチ薬単剤療法,予後不良因子を有すればTNF阻害薬±MTXでの治療開始,または抗リウマチ薬併用療法(2~3剤)を選択することが推奨されている.実臨床においては,多くの場合,予後不良因子を有する高疾患活動性RAが対象となるが,初診例に対してはMTXを開始し,有害事象などにて増量困難な症例以外は遅滞なく漸増することが望ましい.MTX増量ができず,あるいは16 mg/週まで増量しても効果不十分な症例に関してはTNF阻害療法の適応となる.一方,実臨床では初診時にすでに罹病期間6ヵ月以上のRAも紹介受診されてくることもある.このような場合,MTX単剤で治療を受ける患者で3ヵ月後に中等度以上の疾患活動性の場合,①MTXにそれ以外の抗リウマチ薬を追加,または②MTX以外の抗リウマチ薬に変更する.抗リウマチ薬への生物学的製剤追加時期については,MTX単剤または抗リウマチ薬併用療法で3~6ヵ月後に低疾患活動性で予後不良が示される場合には,抗TNF阻害薬に変更または追加する.MTX単剤療法または抗リウマチ薬併用療法で3ヵ月後に中等度以上の疾患活動性の場合,①TNF阻害薬に変更または追加,②TNF阻害薬未使用患者では非TNF系生物学的製剤(アバタセプトまたはリツキシマブ)に変更または追加,③他の抗リウマチ薬に変更または追加のうちから選択する.

生物学的製剤間の変更については,TNF阻害薬投与3ヵ月後に中等度以上の疾患活動性の場合,他のTNF阻害薬または非TNF系生物学的製剤(アバタセプト,リツキシマブ,トシリズマブ)に変更する.一方,非TNF系生物学的製剤で6ヵ月後に中等度以上の疾患活動性の場合,TNF阻害薬に変更する.有害事象などによる生物学的製剤の変更については,非重篤有害事象のためにTNF阻害薬治療がうまくいかず中等度以上の疾患活動性の場合,他のTNF阻害薬または非TNF系生物学的製剤に変更する.また,有害事象(重篤/非重篤)のために非TNF系生物学的製剤治療がうまくいかず中等度以上の疾患活動性の場合は,TNF阻害薬に変更する1).


2 治療の実際

図1では海外での治療アルゴリズムを示したが,わが国では医療環境が若干異なる.



まず,抗リウマチ薬に関しては,MTXは16 mg/週が承認最高用量で,ハイドロキシクロロキンは保険収載されていない.また,生物学的製剤においてもB細胞標的療法が使用できないなどの差異がある.わが国で使用可能なTNF阻害薬は2013年5月現在5剤である(表1).



作用標的はTNFであるが,各製剤の構造,投与方法,半減期,投与間隔などは異なりおのおのの特徴がある.適応は,日本リウマチ学会「関節リウマチ(RA)に対するTNF阻害薬使用ガイドライン(2012年改訂版)」にまとめられている.基本的には抗リウマチ薬を3ヵ月以上継続して投与してもコントロール不良で,圧痛関節≧6個,腫脹関節≧6個,CRP≧2.0 mg/dLあるいはESR≧28 mm/hrを満たす症例に,生物学的製剤を選択する.また,上記を満たさなくても,関節破壊の進行がある際,MTXを十分に使用してもSDAI>11.0の症例には,使用を積極的に考慮するとされる.後述するように,早期RAの場合,MTXをきちんと使用することで約4割において臨床的寛解が得られるが,MTXを使用して効果不十分な症例には遅滞なくTNF阻害薬を導入することが望ましい.生物学的製剤による治療目標は,臨床症候の改善にとどまらず,臨床的寛解,構造的寛解,機能的寛解,および生命予後延長であることを認識して,症例を選択する必要がある.当科では,各製剤を下記のとおり使用することを原則としている.


①インフリキシマブ(レミケー®)は3 mg/kgを初回投与後2週後,6週後,以後8週間隔で反復投与.6または10週後にSDAI>11(CDAI>10)であれば,14,22週後から6 mg/kgに,さらに,それでも不応性であれば10 mg/kgに増量する.寛解導入後休薬を目指すことのできる早期(<3年)の症例には積極的に選択.


②エタネルセプト(エンブレル®)は,50 mgを1日1回,週1回皮下注射.自己注射を推奨する.長期使用が必要な症例,MTXが使用できない症例,併発症・臓器障害がある症例では,最も推奨できる,比較的安全な薬剤と評価される.


③アダリムマブ(ヒュミラ®)は,40 mgを2週に1回皮下注射.MTXとの併用が原則.寛解導入後休薬を目指すことのできる早期(<3年)の症例には積極的に選択している.なお,唯一アダリムマブに関しては,国内臨床試験により抗リウマチ薬と同時に開始することの有用性が示されており,限定的ではあるが添付文書にて「関節リウマチ:本剤の適用は,原則として既存治療で効果不十分な関節リウマチ患者に限定すること.ただし,関節の構造的損傷の進展が早いと予想される患者に対しては,抗リウマチ薬による治療歴がない場合でも使用できるが,最新のガイドライン等を参照した上で,患者の状態を評価し,本剤の使用の必要性を慎重に判断する」との記載が追加された.


④ゴリムマブ(シンポニー®)は,50 mgを4週に1回皮下注射.MTXとの併用が原則.疾患活動性が高く,関節破壊進行症例,または,MTXが併用できない症例で100 mgを使用する.100 mgで疾患制御されれば,50 mgに戻す.


⑤セルトリズマブ ペゴル(シムジア®)は,1回400 mgを0,2,4週後に皮下注射,以後2週に1回200 mg皮下注射.症状安定後には,4週に1回400 mgを使用.皮下注製剤であるが効果発現が早い.


3 成 績

1.RAの疾患活動性に対するTNF阻害薬+MTX

可溶性TNF受容体Ig融合蛋白であるエタネルセプトは,RAに対する生物学的製剤として初めて1998年に承認されたTNF阻害薬で,すでに北米では10年以上の治療成績に関する報告がなされている.罹病期間3年以下の早期RA患者(ERA試験)または1剤以上の抗リウマチ薬で効果不十分であった長期罹患(>3年)RA患者(LRA試験)に対するエタネルセプト療法の長期有効性と安全性を評価する検討では,ERA試験(n=207)とLRA試験(n=644)でエタネルセプト25 mg×2/週を投与した患者3年終了時の有効性が検討された2).ベースライン時における早期RA患者と長期罹患RA患者の平均罹病期間はそれぞれ1.35年と9.29年,平均年齢は50.5歳と54.1歳,平均DASは5.37と5.70,平均DAS28は6.66と6.85であった.早期RA患者と長期罹患RA患者間で平均罹病期間を除く背景因子に有意差はなかった.投与3年後のACR改善率で臨床的効果を検討すると,エタネルセプト単独群またはMTX単独群に比べエタネルセプト+MTX併用群では高いACR20/50/70改善率であった.早期RA患者では,エタネルセプト+MTX併用群とエタネルセプト単独群において同等のDAS28寛解率(35.5 vs 39.5%)であったが,長期RA患者では(34.2 vs 15.1%;p<0.001)エタネルセプト単独での効果は罹病期間長期症例では効果不十分である可能性が高いことが示唆された.一方,エタネルセプト+MTX併用療法は,RAの罹病期間にかかわらず,3年後の臨床症状の改善をもたらすことが明らかとなり,基本的にエタネルセプト使用においてはMTXを併用し,とくに初診時すでに罹病期間長期症例に関してはMTX併用が重要であることが示されている.

その後,最長10年間エタネルセプトを投与した全患者(ERA:n=558,LRA:n=714)についての解析が行われた.全エタネルセプト投与患者は,ERAで3,207患者/年,LRAで4,021患者/年で,それぞれの投与期間の中央値は6.9年と6.2年であった.エタネルセプトの疾患活動性制御をACR20,50,70の改善率で示したのが図2であるが,3年時に認められた有効性はその後10年にわたり維持されていた3).



この間,ERAの249例(44.6%)とLRAの273例(38.2%)においてエタネルセプトが継続されていた.一方,エタネルセプトの中止理由として最も多かったのは有害事象(ERA 12.5%,LRA 13.6%)であったが,重篤な有害事象および重篤な感染症の割合は,MTXの併用の有無による差異は認められなかった.

一方,わが国におけるエタネルセプトの市販後全例調査においても,図3に示すように臨床的効果は併用MTX用量依存性であった.



MTX併用なし群では,合併症を有する患者が少なくないことより単純な比較はできないものの,MTX使用群にて有害事象頻度も少ない傾向があった4).

一方,抗リウマチ薬で効果不十分であったときに,生物学的製剤を追加したほうが良いのか,スイッチしたほうが良いのかに関する確立されたエビデンスは少ない.わが国で行われた,JESMR(Japanese Etanercept Switching on Methotrexate Resistant)試験は,この点を明らかにするためにMTX効果不十分症例における,エタネルセプト追加併用とスイッチした場合の比較試験である.MTX6~8 mgでの効果不十分症例にMTX 25 mg × 2/週に変更もしくは追加された.52週までの結果では,エタネルセプトスイッチ群(ETN群69例)はDAS 28平均6.1から4.2へ低下したのに対して,追加併用群(ETN+MTX群 73例)では6.0から3.0まで低下した.EULARの改善基準においても,good response 33.3 vs 52.1%,DAS寛解 18.8 vs 35.6%であった.すなわち,明らかにMTXに対して効果不十分である場合,エタネルセプトを追加併用するほうがスイッチするよりも有利であることが示された5).

わが国で最初にRAに対する生物学的製剤として保険収載されたインフリキシマブはキメラ抗体であり,抗インフリキシマブ抗体産生抑制のためにMTXの併用が唯一必須とされている.一方,完全ヒトTNF抗体として登場したアダリムマブに関しては,当初アダリムマブに対する抗体は産生されないと考えられていたが,アダリムマブ単独投与では約4割において抗アダリムマブ抗体出現のために効果減弱が生じることが明らかにされている.したがって,アダリムマブの使用に当たっては基本的にMTXの併用が必要である.他のTNF阻害薬に関しては,MTX併用で行われたゴリムマブのGO-FORTH studyでは,主要評価項目である14週目のACR20%改善率が,プラセボの27.3%に比較して,ゴリムマブの50 mg併用では72.1%,100 mg併用では74.7%であり,24週の時点まで持続した.52週までの関節破壊の進行も,ゴリムマブの併用でほぼ完全に阻止されていた.一方,MTXを併用しないGO-MONO studyでは,主要評価項目である14週目のACR20%改善率が,プラセボの19.0%に比較して,ゴリムマブの50 mg併用では50.5%,100 mg併用では58.8%と,とくに100 mg投与で優れた成績を示した.さらに24週の時点では,50 mgの投与では46.5%とやや改善率が低下するのに対して,100 mgでは69.6%に達したほか,関節破壊の進行をほぼ完全に阻止したのもゴリムマブ100 mgの投与であった.以上から,MTX併用では50 mgまたは100 mg,MTX非併用では100 mgのゴリムマブ投与が承認された.より高用量である100 mgがMTX併用の有無によらず使用承認されたことは画期的である.ゴリムマブにおいては,MTX併用では抗ゴリムマブ抗体の出現は認めず,MTX非併用においても4%以下の出現にとどまっており,抗ゴリムマブ抗体による効果減弱は少ないことが示唆されている.

セルトリズマブ ペゴルに関しても2つの臨床試験(MTX併用のJ-RAPID試験,単剤のHIKARI試験)において投与1週後からプラセボに比して有意差をもってACR改善率が高く,12週後のACR50達成率はそれぞれシムジア®200 mg群において(ともに0,2,4週にシムジア®400 mg投与し,その後200 mgを2週間隔で皮下注)41.5%,37.9%であった.一方,24週時点の抗シムジア抗体の発現率はそれぞれ1.5%,8.5%であった.MTX併用を基本とするが,MTXが使用できない場合にはエタネルセプト,アダリムマブではなくゴリムマブ,セルトリズマブ ペゴルの使用が治療成功の可能性が高いと考えられる.


2.RAの骨関節破壊に対するTNF阻害薬+MTX

エタネルセプトの骨破壊抑制効果に関しては,抗リウマチ薬で効果不十分なRAに対するTEMPO試験で,52週後,および2年後の総シャープスコア変化率は,MTX単独群が2.80,3.34,エタネルセプト群は0.52,1.10,両者併用群は-0.54,-0.56であり,エタネルセプト単独ではきわめて弱い骨破壊抑制効果であるため,MTXの併用が必要であることがわかる(図4)6).



一方,エタネルセプト+MTX群では,52週後,2年後に約8割が,総シャープスコア変化率が0.5%以下となり,関節破壊の進行が約8割の症例で完全に抑制された.さらに,大規模試験で総シャープスコア変化率が負に転じており,エタネルセプトとMTXの併用療法では骨びらんを修復し得ることが示された.

アダリムマブによる発症3年以内のRAを対象としたPREMIER試験では,総シャープスコアの平均増加量は52週目で,アダリムマブ+MTX1.3,アダリムマブ単独3.0,MTX単独5.7で,アダリムマブ+MTX群で有意に骨破壊が抑制されたが,その差は104週ではアダリムマブ+MTX1.9,アダリムマブ単独5.5,MTX単独10.4とさらに開いた(図5)7,8).



この試験は,その後オープンラベルでの延長試験となり,各群すべてアダリムマブ単独投与に変更された.その結果,354例の5年間の総シャープスコア増加量はアダリムマブ+MTX2.9,アダリムマブ単独8.7,MTX単独9.7であり,やはりアダリムマブ+MTX群で有意に骨破壊が抑制され,アダリムマブ+MTX群ではその半数が総シャープスコアの年間進行0.5以下で,構造的寛解状態であった.また,同時に臨床的寛解(DAS28<2.6),HAQ寛解(HAQ<0.5)をも満たす完全寛解が35%で達成された.アダリムマブ単独での骨破壊抑制効果は十分ではなく,MTXを併用できる場合はきちんと十分量併用することにより完全寛解をも得られることが報告された(図6)8).



4 TNF阻害療法におけるMTX併用の長所と短所とその使用法における問題点

1.MTX併用療法の利点・問題点

MTXは,高い継続率,疾患活動性制御効果,骨破壊抑制効果,生活機能改善,生命予後改善のすべてが実証されている唯一の抗リウマチ薬であり,メタアナリシスを含めて多くの報告により,他の抗リウマチ薬と比較して優る成績が明らかにされている.

MTX併用がなぜ有利なのかに関してはいくつかの可能性が示唆されている.TNF阻害薬は分子標的療法であり,基本的にはすでに産生されたTNFを中和することにより作用を発揮する.一方,MTXは多くのRA病態形成にかかわるリンパ球,滑膜細胞など多種の細胞に作用してその増殖や炎症性サイトカイン,蛋白分解酵素などの産生を抑制して効果を発現する.強力にTNFを生物学的製剤で抑制しつつ,さらにTNF抑制のみでは効果的に抑制できない炎症病態形成機序をMTXが抑えることにより相乗的な効果が生じると考えられる.また,MTXの併用は前述のようにTNF阻害薬に対する抗体産生を抑制し中和抗体産生による効果減弱を抑制する.

一方,市販後の実臨床ではさまざまな合併症をもった患者への投与が行われているが,全例調査の有害事象の要因としてMTX併用は抽出されてこない.海外でのWolfeらの検討においても,生物学的製剤投与時の感染症の発現に関してもMTX併用は関与しないことが明らかにされている.


2.MTX併用に関するわが国における問題点

わが国でのMTXの使用開始量は欧米と比較して低く,かつ増量の速度が遅いことが指摘されている. MTXを遅滞なくすみやかに増量する必要性を示すいくつかの根拠がある.インフリキシマブにおけるATTRACT試験,エタネルセプトにおけるTEMPO試験,アダリムマブにおけるPREMIER試験など多くの生物学的製剤の臨床試験のコントロールとしてのMTX開始用量は週15 mgであるが,それにもかかわらず骨破壊は24週時点で明らかに進行していることが報告されている.したがって,これらの事実を考慮すると,不必要にMTXをゆっくり増量することは骨破壊進行を容認することになり,少なくともMTX16 mgまではすみやかに増量するべきだと考えられる.

また,産業医科大学第一内科を事務局とした厚生労働科学研究におけるZERO-J スタディからもMTXの早期増量の重要性を示す途中経過が出ている.この研究は,関節破壊「ゼロ」を目標とした保険診療内で実施できる治療ガイドラインを試用し,検証することを目的とした研究である(UMIN000001281).12施設による多施設共同研究で,選択基準はACR/EULAR 2010年RA分類基準に基づき診断され,抗CCP抗体陽性,罹病歴2年以内,関節X線(手,足)で骨びらんが3個以内,MTX未使用症例.これらの症例にMTX6~16 mg/週を3ヵ月(12週間)投与後,「関節リウマチ(RA)に対するTNF阻害療法施行ガイドライン(改訂版)」の基準を満たす症例より同意が得られれば,いずれかのTNF阻害薬を1年間(54週間)投与(T群),同意が得られなかった症例は,抗リウマチ薬で1年間治療を継続(M群),また,ガイドラインの基準を満たさない症例もhigh responder (HR)群として1年間経過観察する(図7).



この研究において,平成20~22年(MTX用量の最大限は8 mg/週),平成23年からは,公知申請により認可されたMTX最大用量を週16 mgとした.前基準(MTX8 mg/週以下)vs改訂基準(MTX16 mg/以下)におけるMTX治療3ヵ月後のガイドライン基準判定時ガイドラインを満たさない症例の割合は(33.9 vs 71.4%)であり,MTX開始後すみやかにMTX8 mgを超えて必要に応じて16 mgまで増量することにより,少なくとも早期RAではMTX開始後3ヵ月時点でTNF阻害療法の基準該当する患者割合は半減することが示唆されている.


結 語

臨床試験の結果において,生物学的製剤は基本的にMTXを併用することで最大限の効果が得られるものと考えられる.もう一方で,MTX併用の有用性を十分に得るためにも診断すれば遅滞なく導入し,さらに増量することで早期に臨床的寛解,骨破壊抑制を得ることが重要である.実際,初診の早期RAでは,約4割にMTX単独で寛解を得ることができる.その一方で,きわめて活動性の高いRAに関しては短期間に骨破壊が進行することから,わが国の保険診療においてはアダリムマブをMTX開始とともに導入することが認められている.TNF阻害薬が5剤使用可能であるが,おのおのの製剤の特徴を踏まえた各患者の背景をも考慮のうえ,適切な使い分けが必要である.


References

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2)van der Heijde, D., Klareskog, L., Landewé, R. et al.:Disease remission and sustained halting of radiographic progression with combination etanercept and methotrexate in patients with rheumatoid arthritis. Arthritis Rheum. 56:3928-3939, 2007

3)Weinblatt, M., Genovese, M., Bathon, J. et al.:Safety and efficacy of etanercept(Enbrel®)treatment in North American patients with early and long-standing rheumatoid arthritis:10 years of clinical experience[abstract]. Arthritis Rheum. 58(Suppl):S540-S541, 2008

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6)van der Heijde, D., Klareskog, L., Rodriguez-Valverde, V. et al.;TEMPO Study Investigators:Comparison of etanercept and methotrexate, alone and combined, in the treatment of rheumatoid arthritis: two-year clinical and radiographic results from the TEMPO study, a double-blind, randomized trial. Arthritis Rheum. 54:1063-1074, 2006

7)Breedveld, F.C., Weisman, M.H., Kavanaugh, A.F. et al.:The PREMIER study:A multicenter, randomized, double-blind clinical trial of combination therapy with adalimumab plus methotrexate versus methotrexate alone or adalimumab alone in patients with early, aggressive rheumatoid arthritis who had not had previous methotrexate treatment. Arthritis Rheum. 54:26-37, 2006

8)Keystone, E.C., Kavanaugh, A., van der Heijde, D. et al.:Long-term impact of adalimumab plus methotrexate on radiographic, clinical and functional progression of rheumatoid arthritis. ACR 2009 abstract p1679




産業医科大学医学部第一内科学講座准教授

齋藤和義 Saito Kazuyoshi


産業医科大学医学部第一内科学講座教授

田中良哉 Tanaka Yoshiya


総論/竹内勤

DEBATE 1 MTX単独による治療/天野宏一

・DEBATE 2 MTX+TNF阻害薬による治療/齋藤和義 ほか

コメント/竹内勤